| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) J02-14 (Oral presentation)
生物の表現型の構成要素であるボディパターン(色・模様など)は、防御、捕食、種内コミュニケーションなどにおいて様々な役割を持つ。特にイカやタコなどの頭足類は色素胞や表皮の質感を調整することで、多様で可逆的かつ動的なボディパターンを示す。しかし、頭足類のボディパターンのレパートリーを定量的に評価する手法は確立されていない。頭足類のボディパターンは瞬時に変化することから、まずは動画撮影を行いフレーム毎のボディパターンを観察する必要がある。そのため、解析時には大量の画像データを処理しなければならず、またボディパターンの評価に観察者の主観が混じるリスクも生じる。しかし近年では、DeepLabCutなど生態学分野に特化した機能を備えた機械学習技術の登場によって、大量のデータを用いた動物のポーズ・動作解析が可能になってきている。
本研究では、イカ類のボディパターンのレパートリーを明らかにするため、定量化手法を開発することを目的とした。沖縄科学技術大学院大学(OIST)においてアオリイカ生体の行動実験および動画撮影を行った。次に、主にポーズ予測に用いられる深層学習プログラムSLEAP、オブジェクトセグメンテーションに用いられる機械学習モデルSAM2を使用して動画の解析を行った。SLEAPでは、教師あり学習の後に水槽内のイカのポーズ・位置予測を行った。SAM2では、プロンプト入力セグメンテーションによりイカの位置予測を行った。これらによって得られたイカの体軸の向きと座標情報を用いて、各個体の外套膜のグレースケール値を算出し、ボディパターンのクラスタリングを行った。これにより、機械学習を用いてイカ類のボディパターンを判別できる可能性が示されたが、撮影条件による影響を受けるという問題があることも見いだされ、さらなる改良が求められる。