| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) J03-15 (Oral presentation)
鳥類において、越冬期の同種個体間の関係は、その後の生活史イベントにおける社会関係に影響を与えることがある。しかし、渡り鳥は繁殖期と越冬期で生息地を大きく変えるため、関係性の継続的な追跡が難しく、定住性鳥類と比べ、長期間にわたる社会関係の理解が遅れている。渡り性猛禽類のノスリは、繁殖地ではつがいでなわばりを共有し子育てを行うが、九州へ渡り越冬する個体は、通常単独でなわばりを形成し、他個体の侵入に対して排他的である。しかし断片的な観察から、時折2個体が敵対せずに樹木や電柱に隣り合ってとまる行動(2羽どまり)を示すものがいることが判明した。定住性の近縁種では、2羽どまり行動は社会的つがいで見られるが、九州へ渡り同様の行動を示すノスリ2個体間の関係性は全くの不明であった。この詳細を明らかにするために、本研究では2羽どまりを行う九州の越冬個体を捕獲し、GPSロガーによる同時追跡を試みた。その結果、3組6個体の捕獲追跡に成功し、これらは全て雌雄の組み合わせであることが判明した。各組雌雄の越冬期の行動圏は大きく重複し、なわばりを共有していた。また、追跡結果と目視観察から、2組は複数年連続して同じ越冬なわばりを共有したことが分かった。さらに同時刻の位置データを解析したところ、日中の2羽どまり行動に加え、夜間に塒を共有していることも確認された。これらの結果からは、2羽どまりを行う雌雄は、互いに排斥することなく許容し、同じなわばりを保持している状況が伺えた。しかし、渡り開始後の継続追跡により、3組全てにおいて雌雄の渡り先(繁殖地)が異なることも判明した。この結果は、2羽どまりを行う各組雌雄が社会的つがいである可能性を否定するものであった。