| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) J03-17 (Oral presentation)
鳥類の飛行メカニズムは、空気力学にとどまらず、生態学、進化学、生理学などの観点からも重要な研究課題である。しかし、鳥類は速く自由に飛び回るため、飛行時の詳細な観測は困難である。風洞はトンネル内に気流を生むことで鳥を定位置で飛行させ、精密な観測を可能にした。風洞は生物飛行の研究において重要な役割を果たしてきたが、鳥類の飛行実験に適した風洞は、設置に高コストと広大な空間を要するため、世界的にも稀で、国内には存在しない。
本研究では、鳥類の飛行実験を可能とする低コストの小型風洞を独自に開発し、その設計、構造、性能の評価、および初期飛行実験の結果について報告する。鳥類に適した風洞の設計では、十分な飛行空間の確保と均一で安定した流速の維持が主要な課題となる。本研究では、翼開長0.75 m以下、飛行速度15 m/sまでの鳥類の飛行を想定し、開放型の吸込式風洞を設計した。設置空間の制約を考慮し、全体の構造を短縮しつつ、計測区間の断面を八角形とすることで、飛行空間を確保しながら流速の損失を抑えた。風洞本体は汎用の金属フレームで構築し、改造や拡張が容易な設計とすることで、研究の発展に対応可能な構造とした。風洞内の流速特性については、熱線流速計で評価し、流速分布が適した範囲内に収まることを確認した。
飛行実験にはハト類(Columbidae)を用い、個体ごとに訓練した。その結果、同種であっても自発的に飛行する個体とそうでない個体が存在することが確認された。飛行中の翼運動および姿勢の解析に、ステレオ撮影による3次元運動計測を適用した。初期実験により、本風洞を用いた定量的な飛行データの取得が可能であることが示された。本研究は、鳥類の飛行特性に関する定量的理解の深化に貢献するとともに、低コストで実現可能な小型風洞の有用性を示すものである。