| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) J03-18  (Oral presentation)

行動圏と採餌行動にみるオオミズナギドリの雌雄差:大島と粟島の繁殖個体を対象に
Sex differences in home range and foraging behavior in streaked shearwaters during the chick-rearing season: A study on Oshima and Awashima islands

*屋敷智咲(名古屋大学), 武田航(名古屋大学), 小山偲歩(名古屋大学, 名城大学), 後藤佑介(名古屋大学), 依田憲(名古屋大学)
*Chisaki YASHIKI(Nagoya Univ.), Wataru TAKEDA(Nagoya Univ.), Shiho KOYAMA(Nagoya Univ., Meijo Univ.), Yusuke GOTO(Nagoya Univ.), Ken YODA(Nagoya Univ.)

海鳥の多くの種では、移動や採餌行動に雌雄差があることが報告されており、この差は特に繁殖期に顕著である。こうした雌雄差は、雄と雌が異なる生理的特性や繁殖役割を持つために生じると言われている。さらに、海鳥の行動における雌雄差は海洋環境の差異によっても生じうる。表面海水温(SST)などの海洋物理環境は餌の分布や利用可能性、ひいては海鳥の分布や行動に影響を与えるため、結果として雌雄の特性差を強調する可能性がある。しかし、海洋環境が行動の雌雄差を生じさせるかについては、議論が不足している。
そこで本研究では、海鳥のなかでも行動範囲が特に広いオオミズナギドリ (Calonectris leucomelas)を対象とし、周辺の海洋環境特性が異なる新潟県粟島と三重県大島で繁殖する2個体群を比較することで、行動の雌雄差の背景にある環境要因の影響を明らかにすることを目的とした。2023年に野外調査を行い、両地域のオオミズナギドリにGPSロガーを装着して移動経路を記録し、行動パラメータ・行動圏面積の雌雄差や、雌雄間の行動圏重複度を解析した。また、雌雄が利用した行動圏内での海洋パラメータに差があるかどうかも検証した。
解析の結果、新潟県個体群では行動圏と行動圏面積、利用した行動圏内の環境パラメータに雌雄差が見られたが、三重県個体群では雌雄差が見られなかった。また、新潟県個体群では、個体群全体における中心行動圏内の広い範囲を雄が利用し、行動圏内の海洋パラメータ(風速・SST・波高)に雌雄差があった。本研究では世界で初めて三重県大島のオオミズナギドリに関するGPSデータを取得し、三重県大島個体群では雌雄の行動パターンが類似していることを示す貴重な移動生態情報を提供するとともに、オオミズナギドリの採餌移動における雌雄差の有無が、繁殖地周辺の海洋環境に由来する可能性を示唆した。


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