| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) J03-19  (Oral presentation)

野生ニシゴリラにとってのアフリカショウガの重要性を食痕計測から再評価する
Re-evaluating the importance of African ginger to wild western gorillas through the measurement of their feeding traces

*田村大也(京都大学), Etienne François AKOMO-OKOUE(IRET/CENAREST)
*Masaya TAMURA(Kyoto Univ.), Etienne François AKOMO-OKOUE(IRET/CENAREST)

かつてニシゴリラは原生林に依存して暮らしていると考えられていたが、現在では二次林も重要な生息地であることが明らかになっている。二次林では、ショウガ科やクズウコン科などの豊富な地上性草本がニシゴリラの重要な食物になることが指摘されてきた。しかし、従来の研究では、主に糞分析からニシゴリラの食性を推定しており、どの地上性草本がなぜ重要な食物になり得るのかは曖昧なままであった。本研究では、ガボン共和国ムカラバ・ドゥドゥ国立公園に生息する野生ニシゴリラと、そこに分布する地上性草本のアフリカショウガの1種(以下、ショウガ)に着目した。2018年~2019年に実施した合計12ヶ月間の調査において、ニシゴリラのショウガ採食行動の直接観察とショウガ食痕の計測を行い、ニシゴリラの食物としてのショウガの重要性を再評価した。調査の結果、地上性草本の中でショウガの採食サイトが最も多く記録された。ニシゴリラが採食したショウガ(N = 1311)と著者らがランダムに採集したショウガ(N = 4233)の全長のヒストグラムはほぼ一致した。ニシゴリラはショウガの茎の髄を採食するが、ショウガの全長に比べて採食する髄の量のばらつきは小さく、ショウガ1個体あたり平均39.0 cmの髄を消費していた。一方で、ショウガの全長が大きくなるにつれて、ニシゴリラは茎頂側の髄のみを採食する傾向を示した。また、一箇所で採食するショウガ個体数は平均3.3個体(最大:23個体)で、他種の地上性草本より有意に多かった。ニシゴリラはショウガの成長段階に応じて採食する髄の位置を変えることで、あらゆる成長段階のショウガのランダムな利用を可能にしていることが示唆された。こうした採食操作の柔軟性が、ショウガを利用可能な豊富な食物とし、ニシゴリラの二次林での生息を支えていると考えられる。


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