| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) J03-21  (Oral presentation)

ヤツメウナギに左右性はあるのか?ー産卵時に巻き付くヤツメと回るヤツメー
Do lampreys exhibit laterality? - A focus on coiling and rotating behaviours during mating -

*三枝弘典, 小泉逸郎(北海道大学)
*Hironori MIEDA, Itsuro KOIZUMI(Hokkaido Univ)

多くの生物で左右性が見られる。特に魚類では、最も原始的なヤツメウナギ類を含め、軟骨魚類、硬骨魚類まで頭部の形態の左右性が知られている。頭部の形態的な左右性と行動の左右性に関連があることは鱗食魚をはじめ様々な種で報告されてきたが、多くの研究は被食捕食関係に焦点を当ててきた。そのため、この関連性は捕食被食関係に由来するのか頭部(特にに口部)の利用に由来して発達したのか明らかにされていない。
非寄生性のシベリアヤツメの成体は何も食べない。しかし繁殖行動においてオスは自身の口部を使ってメスの頭に吸い付くと同時に体をメスに巻き付けてペア産卵を行う。この巻き付き行動は左巻きと右巻きが観察される。口部の動作と連動した巻き付き行動は、捕食被食関係でなく繁殖行動の文脈で口部の利用と形態-行動の左右性の関連性を評価できると考えた。また、産卵時にスニーカーが加わることがある。スニーカーはメスの総排出孔付近を回転しながら放精を行うが、この回転にも左周りと右周りがある。この回転は口部の動作と連動しないため、上記のような関連性は弱いと予測した。
本研究では2つの行動で個体ごとの“利き”があるのか、形態的な左右性の指標である下顎の長さの左右差と行動の利きに関連があるのか、形態的な左右性の影響は2つの行動間で異なっているのかを調べた。その結果、巻き付き行動とスニーク行動の両方でほとんどの個体が両利きを示した。また下顎の長さに左右性は認められず、形態の影響は行動間で差が無かった。
成体が寄生生活を送り、より基部的な姉妹種のカワヤツメは下顎の長さに左右性が報告されている。これを踏まえると、下顎の形態差はシベリアヤツメが非寄生生活を送るようになって消失した可能性がある。また頭部の形態的な左右性と行動の左右性との関連は、寄生を含む被食捕食関係に由来して発達したのかもしれない。


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