| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) J04-11 (Oral presentation)
エトピリカFratercula cirrhataなどウミスズメ科の一部の種は、繁殖期に複数の餌を嘴に並べて咥え、帰巣してヒナに与える。エトピリカは複数の餌をいかにして嘴に並べ、なぜ狩りの最中にそれらを落とさないのだろうか。技術的に困難であったためか、これまでに実際の水中の行動を分析した事例は報告されていない。そこで本研究は、東京都の葛西臨海水族園で飼育されているエトピリカの水中での採餌を高解像度防水カメラで撮影し、親鳥が育雛用の餌を収集する行動を分析した。餌は解凍された小魚類等を与えた他、生きたカタクチイワシを水槽に放流する機会も設けた。なお、本取り組みは動物福祉に配慮して行われた。結果、親鳥は餌を捕らえた直後に“パクパク”と嘴の開閉を繰り返し、それにより餌が嘴の奥へと移動すると、次の餌の探索や捕獲に移っていくことが確認された。親鳥4個体による12件の解凍餌の収集シーンを分析したところ、うち11件において、親鳥は餌を捉えた直後に嘴を繰り返し開閉し、餌は嘴の根元側へと移動した。嘴の開閉は、餌の位置を調整して次の獲物を捕獲・保持する空間を設ける機能を有しており、複数の餌の収集に特異的な行動であることが示唆された。また、舌や口蓋など、嘴の奥の口腔内構造が餌の落下防止に役立っている可能性もある。生きたイワシを与えた際は、親鳥5個体10件の採餌シーンのうち4個体による4件で、親鳥は採餌直後に嘴を開閉しながら餌を嘴の根本側へ移動させると同時に、魚の頭部から胸鰭付近を集中的に噛む行動を示した。この行動は解凍された餌の収集では観察されず、頭部に傷がつくと生き餌の動きが抑制されて餌の保持や次の生き餌の捕獲が円滑になる可能性が考えられる。複数の餌を捕らえ、それを確実に巣に持ち帰ることは本種の繁殖成功を左右する。嘴の開閉をパクパク繰り返す行動は、餌の落下を防ぐと同時により多くの獲物を狩るための戦術とも言える行動であることが示唆された。