| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-001 (Poster presentation)
シカの食害による森林生態系の改変によって、シカが好んで摂食しない植物(不嗜好性植物)が森林下層で優占する林分が見られる。アセビ(Pieris japonica; ツツジ科)は常緑性の低木で、器官中に中毒性のある物質を含むためシカが摂食せず、明るい林分で拡大している。個体数が増加することによる生態系への影響は、これまでほとんど研究が行われてこなかった。本研究ではアセビが生態系にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにするため、1)アセビが繁茂している所の地表面と土壌環境、2)土壌微生物相、3)他の植物の発芽や成長に及ぼす影響、4)アセビ群落を伐採した後の他の樹木へのレガシー効果の4つについて調査を行った。調査は2022年から九州大学宮崎演習林(宮崎県椎葉村)の中で行った。1)では、アセビが繁茂している地点を選定し、その周辺で同様の上層木(針葉樹、落葉広葉樹)等の条件でアセビが繁茂していない箇所を同数選定し環境変数を比較した。アセビの繁茂によって上層が落葉樹のところで林床の光環境が暗く、腐植の量が増加していることがわかった。2)では、上記と同じ箇所で土壌微生物相を比較したところ、アセビの繁茂しているところの土壌で真菌類のうち外生菌根菌の相対量が低下することがわかった。3)では、アセビ群落下の腐植を用いて発芽実験をしたところ、特に根の伸長が阻害されることがわかった。4)では、アセビを伐採した群落と、群落外で複数樹種の苗木を植え、生存や成長量で検証したところ、アセビ伐採後に植栽した個体の生存も成長も群落外より良好であった。アセビの繁茂によって地表面の環境や土壌微生物相に変化があることと、それらが他種の定着などを阻害している可能性が考えられたものの、アセビを伐採して苗木等を植えた場合には負のレガシー効果などはみられなかった。発表では上記の結果と現在進めている解析結果、今後の展望などを議論する。