| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-002 (Poster presentation)
日本各地でシカの生息密度増加による森林植生への影響が深刻化する中、2013年の「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を契機に、捕獲によるシカの個体群管理が全国的に強化・推進されてきた。その結果、依然としてシカが増加している地域もあるものの、生息密度が減少に転じた地域が増え始めている。一方で、シカ密度の低減が植生回復に及ぼす効果を検証した事例は少なく、不明な点が多い。植生保護柵を用いた研究では、累積的な影響を受けた地域ではシカ採食圧を排除しても植生回復に時間がかかることが指摘されており、捕獲によるシカ密度低減が達成された場合でも、それまでの累積的な影響の大きさによって植生回復速度が異なることが予想される。そこで本研究では、大阪府で継続的に実施されてきたシカ密度のモニタリングデータを活用し、9年間の林床植生の変動に及ぼすシカ密度の増減履歴の影響を評価した。
大阪府北摂地域の104ヶ所に50 m×4 mのベルトトランセクトを設置し、2014年から2024年にかけて毎年冬季に糞塊除去法でシカ密度を推定した。その後、IDW法による空間補間を行い、1km2メッシュごとのシカ密度を評価した。また、糞塊調査地のうち落葉広葉樹林に位置し、伐採などの人為的なかく乱のなかった86ヶ所において2015年および2024年に林床植生調査を実施した。各トランセクトを5つに区切った10 m×4 mの範囲を調査プロットとし、高さ150cm以下の植生を対象として出現種数と被度を記録した。併せて各調査プロットにおける光環境や地形、傾斜角度などの環境要因を記録した。
発表では各調査プロットにおける林床植生の種数や被度に対して、累積的なシカ密度や環境要因がどのように影響するのかを一般化線形混合モデルや一般化加法混合モデル等で解析し、植生回復のために必要となるシカ個体群管理施策について議論したい。