| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-003  (Poster presentation)

物理学的観点から見た森林音響の評価【S】
Evaluation of forest acoustics from a physical point of view【S】

*藤本高明, 清水瑛太(鳥取大学)
*Takaaki FUJIMOTO, Eita SHIMIZU(Tottori University)

 本研究では,森林を構成する樹木を加振することによって得られる音響(振動)スペクトル情報に基づいて,その森林の状態を物理学的視点から定量的に評価する方法を提案する.具体的には,生立木の樹幹側面に固定した加速度センサー付近を打撃することによって受信した音響信号をFFT処理によりスペクトル分解し,これを対象となる系(林分)を構成する樹木に対して行うことによってスペクトル行列を収集する.こうして得られたスペクトル行列から算出した固有値集合をエネルギー関数,すなわち,ハミルトニアンとみなすことによって,同林分の状態を情報熱力学的に評価する.本研究では,天然林(ブナ,カエデ他)と人工林(スギ)において,それぞれ若齢林分(約50年生)と高齢林分(約100年生)を設定し,それらの状態を比較した.
 エネルギー固有値は天然林の方が人工林よりも広く分布する傾向にあり,また,その確率分布から算出したShannonエントロピーは人工林が天然林よりも高い値を示した.すなわち,森林が奏でる音色という視点からは,天然林の方が人工林よりもランダム性が低く,より秩序だった状態にあることが示唆された.若齢林と高齢林を比較すると,天然林・人工林ともに,前者の方がエネルギー固有値分布は広く,Shannonエントロピーは低い結果であった.この結果から,森林は遷移の進行にともなって,その状態がよりランダムな状態へ向かうと考えられた.


日本生態学会