| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-005 (Poster presentation)
木本性つる植物は森林の物質生産の量と質ともに変化させるため、その優占度以上に森林の炭素蓄積に影響を与える存在とされている。しかし、研究例が熱帯域に偏っておりそれ以外の地域の知見が少ない、つる植物自身の生産量の評価例が少ないといった課題もある。本研究では温帯林にてつる植物除去実験を行い、地上部純一次生産量(ANPP)をつる植物と樹木それぞれで計測することで、温帯林においてつる植物が森林の炭素蓄積に与える影響を明らかにすることを目的とした。調査地は筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所内のアカマツ林とした。同林内に4つの調査区(それぞれ30 m×30 m)を設置し、調査区内でつる植物と樹木それぞれを対象として毎木調査とリターフォールの採取を行った。調査は2022年、2023年、2024年の三年間行った。また、2022年に2つの調査区ですべてのつる植物の幹を切断することで、それらの調査区では2023年と2024年はつる植物を除去した状態のANPPを計測した。結果として、つる植物は森林ANPPのうち4.5%を占めており、幹断面積の優占度(1.1%)に対して高い値であった。つる植物のANPPのうちリターフォールが占める割合が大きく(67.2%)、これは熱帯の先行研究と同様の傾向であった。つる植物のANPPの種間差に注目すると、各種の幹断面積ベースの優占度とANPPへの寄与率が比例しないことが明らかになった。例えば、ヤマブドウは基底面積では三番目に優占していた(11%)が、ANPPでは最も寄与していた(36%)。また、つる植物の除去による地上木部バイオマス増加量の上昇やリターフォールの低下といった、既存研究で見られた傾向は本研究では見られなかった。本研究によって、熱帯林で観測されたような森林の炭素蓄積に対するつる植物の強い負の効果は、温帯林では見られないこと、つる植物の物質生産特性には種間差があり、それがつる植物群集の物質生産の強い説明要因になる可能性が示唆された。