| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-007 (Poster presentation)
アマモ(Zostera marina)は北半球の広い範囲に分布する海産の単子葉植物であり、沿岸浅海域の静穏な砂泥域に群落(アマモ場)を形成する。アマモ場は二酸化炭素隔離・貯留をはじめ、底質の安定化、栄養塩吸収による水質改善といったアマモ由来の生態系機能を有し、多種多様な生物が蝟集する場となり生物多様性や生物生産を高めることが知られている。近年、気候変動に伴う海水温上昇によりアマモ場の衰退・消失への懸念が世界各地で高まっており、日本においても各地で海水温上昇によると考えられる影響が確認されている。海水温上昇に対するアマモの抵抗性については地域個体群ごとに異なることが予測されているが、アジア太平洋海域でこれを調べた研究事例はほとんど見当たらない。また、日本では気候変動に伴う大雨が増加しており、沿岸海域では淡水流入による塩分が一時的に低下する機会が増加していると考えられる。同じ海域内の異なる塩分環境に生育するアマモ局所個体群間では各々塩分条件への適応性が異なることが報告されており塩分低下による影響が異なることが予想されるが、アジア太平洋海域でこれを検証した研究事例は見当たらない。そこで本研究では、北海道厚岸海域の異なる環境に分布する3つのアマモ個体群を対象とし、水温及び塩分を操作する屋内飼育実験により栄養株の生存率・光合成活性・遺伝子発現等が集団間でどのように異なるのかを比較した。実験では、各個体群が分布する海水温条件を設定し、淡水流入を想定した塩分の一時的な低下を再現した。実験期間は馴致期間を含めて約1か月を設定し、途中で一週間の塩分低下操作を行うことで塩分変化の前中後でのアマモの反応を調べた。本発表では実験から得られた結果について考察する。