| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-009 (Poster presentation)
熱帯亜熱帯の干潟にマングローブ林を形成するヒルギ科植物は、種子と果実を親木に繋げたまま胚軸を伸長させてから落下させる「胎生種子散布」という特異な繁殖様式を持つ。胚軸の表皮は緑色でクロロフィルを持つことから、光があたる日中には光合成により酸素が発生していると考えられる。また、胚軸の表皮にはガス交換の出入口である気孔がほとんどないため、胚軸内部の呼吸系への酸素供給は葉緑体における酸素発生に依存して、日中と夜間で大きく変動している可能性がある。本研究では、沖縄県西表島で採集したヒルギ科3種(オヒルギ・メヒルギ・ヤエヤマヒルギ)の胎生種子について、胚軸内部の構造観察を行い、光照射に伴う酸素濃度変化と呼吸の酸素親和性および呼吸鎖末端酸化酵素量を測定した。
胚軸は3種とも、緑色の表皮・乳白色の皮質層・白色の髄の3つの区分に分けられ、表皮細胞内にクロロフィルが点在していることが観察された。また、皮質層と髄の細胞内には多量のデンプン粒が貯蔵されていた。各区分の空隙率は、表皮より内部の方が高く、オヒルギとメヒルギでは皮質層>髄>表皮、ヤエヤマヒルギでは髄>皮質層>表皮であった。髄の中心部における酸素濃度は、3種とも暗条件下ではほぼゼロであったが、光照射と共に上昇し、およそ1時間以内で酸素飽和状態に達したのち徐々に低下した。光照射の経過に伴って胚軸内部のCO2濃度が低下し、光呼吸による酸素消費が増加した可能性がある。各区分の呼吸の酸素親和性は、胚軸内部で高い傾向があり、オヒルギでは表皮=皮質層>髄、メヒルギとヤエヤマヒルギでは髄>皮質層>表皮であった。また、胚軸内部の呼吸鎖酸化酵素は、シトクロム経路末端酵素に対するバイパス経路末端酵素の割合が高くなっていた。以上から、ヒルギ科マングローブ植物は、胚軸内部の構造や呼吸特性を、低酸素環境に対応させて変化させていることが明らかとなった。