| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-018 (Poster presentation)
多くの海藻は環境や季節に応じた配偶体世代と胞子体世代からなる2世代交代の生活環を示す。アオサ藻綱(Ulvophyceae)の海産緑藻エゾヒトエグサ(Monostroma angicava)は、冬季の潮間帯に繁茂する巨視的な配偶体が、春先になると潮汐を利用して雌雄配偶子を同時放出し、配偶子の走光性を使って効率的に有性生殖を行うことによって微視的な胞子体へと世代交代すると考えられている。接合できずに残った配偶子は微視的な胞子体へと単為発生することができるが、野外において実際に単為発生がどの程度行われているかは明らかでない。雌雄の配偶体は単相であり、それらが有性生殖と単為発生のどちらに由来するかは確認することができない。一方、有性生殖と単為発生の両方で形成される微視的な胞子体は、形態的には区別できないが、接合子から発生した胞子体は複相であり、配偶子から単為発生した胞子体は単相であることから、核相に違いがある。エゾヒトエグサのゲノムには雌雄間に遺伝的な差異が存在することから、雌雄それぞれの性マーカーを検出することで、接合子から発生した胞子体と雌雄の配偶子から単為発生した胞子体を遺伝的に区別することが可能である。本研究では、この微視的胞子体の性質に着目し、野外で採集した胞子体の性マーカーを検出することで、北海道室蘭市沿岸の集団の有性生殖と単為発生の割合を調査した。配偶体の生育場所の砂から採集した胞子体を単離し、Direct PCRによって性マーカーを検出すると、いずれも雌雄両方の性マーカーを有しており、接合子から発生したものであることが明らかとなった。このことから、太平洋側の室蘭市沿岸においては潮汐を利用した繁殖戦略が十分に機能することで、効率的な有性生殖を行っていることが示唆された。