| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-019  (Poster presentation)

ヤマノイモ個体群のウイルス感染率はウイルスの遺伝的多様性に影響されるのか【A】
Does the genetic diversity of the virus affect infection rate in populations of Dioscorea japonica?【A】

*宮川柚哉, 前田裕, 井上みずき(日大文理)
*Yuya MIYAGAWA, Yutaka MAEDA, Mizuki INOUE(Col. Hum. & Sci., Nihon Univ.)

ヤマノイモモザイクウイルス(以下、JYMV)はヤマノイモに感染し、葉にモザイク症状を引き起こし光合成効率を低下させ、農地のヤマノイモの収量の低下を引き起こす。農地でのJYMV感染は自生するヤマノイモから伝播することがあるため、自生地でのJYMV感染の実態を解明することは間接的な感染予防につながると考えられる。本研究ではJYMVの遺伝的多様性がヤマノイモ個体群のウイルス感染率の変動に影響するのかを明らかにした。2023年に5地域(多摩川台公園、浅間山公園、大池公園、田無演習林、相模大野の森林)でヤマノイモ240個体から葉を採集し、RT-PCRを用いてJYMV感染率が推定された。このうち、JYMV感染が確認されたサンプルを各地域5サンプルずつ用いて、殻タンパク質をコードする遺伝子座の241bpをRT-PCRし、ダイレクトシーケンスを行った。4つのハプロタイプが発見され、多摩川台公園と浅間山公園、田無演習林ではハプロタイプIのみから構成されていた。大池公園はハプロタイプI、Ⅱ、Ⅳ、相模大野はハプロタイプⅠ、Ⅱ、Ⅲで構成されていた。地域ごとのシンプソンの多様度指数は0〜0.8、ハプロタイプ多様度は0〜0.64、塩基多様度は0〜0.0049の範囲であった。このことから、JYMVの遺伝的多様性は全体的に乏しい事が示された。不自然な挿入を除去した上でアミノ酸配列に翻訳した結果、アミノ酸配列に変化は認められなかった。これらは、観察された塩基置換が同義置換であり、アミノ酸配列には影響を与えなかったことを示している。他の植物ウイルスでは殻タンパク質の遺伝的変異により集団のウイルス感染率が高くなった例が知られているがJYMVの遺伝的多様性はJYMV感染率に直接的な影響を及ぼしていない可能性が示された。


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