| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-020  (Poster presentation)

高隈山系に同所的に分布するホトトギス属3種の受粉前生殖的隔離機構について【A】
Pre-pollination reproductive isolation mechanisms among three sympatrically distributed Tricyrtis species.【A】

*二町侑樹, 渡部俊太郎(鹿児島大学)
*Yuki FUTAMACHI, Shuntaro WATANABE(Kagoshima Univ)

生殖的隔離は種間の遺伝子流動を制限することで、多種の共存を支えることが知られている。植物の生殖隔離は受粉の前後で受粉前隔離と受粉後隔離に分けられるが、特に近縁種が同所的に生育をしていくには、交配前の受粉前生殖的隔離が重要になるのと考えられている。しかし、受粉前隔離機構には様々な要因が働くことから、複数の障壁を定量化し、各障壁の重要性を見積もった研究は限られている。
そこで本研究では、鹿児島県内の同一の山地内で同的所に共存しているホトトギス属3種を対象に、(1) 空間的隔離 (2) 時間的隔離(3) 繁殖形質の分化隔離 (4) 送粉者相の分化隔離 (5) 送粉者の行動隔離について定量化し、生殖的隔離の要因を検討した。
結果は、(1)ホトトギスは低標高地に主に分布する一方、タカクマホトトギスとヤマジノホトトギスは比較的標高の高い場所で混生している様子が見られた。(2)ヤマジノホトトギス、タカクマホトトギス、ホトトギスの順番で開花し、開花のピークは重複しなかった。(3)カラーヘキサゴンにより、ハナバチの視覚から見て、各種の花をある程度グループ分けすることができることが示唆された。(4) 3種ともトラマルハナバチが最もよく訪れており、送粉者相の分化は見られなかった。(5) 3種が混生している場所では、トラマルハナバチは花数が多い種を連続して訪花したため、属内での種間送粉はほとんどみられなかった。
各要因の重要性を比較したところ、空間的隔離、時間的隔離、送粉者の行動隔離が累積して働くことで、受粉前生殖的隔離が成立していることが示唆された。また、空間分布が大きく重複する種間でも、開花期のずれと花色・蜜標の反射率の違いに基づくトラマルハナバチの選択的な訪花行動が、種間送粉の頻度を減少させ生殖隔離に貢献する可能性が高いことが示唆された。


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