| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-021 (Poster presentation)
シナノザサ(Sasa senanensis (Franch. et Sav.) Rehder)を含むササ属の稈の動態については、観測が長期に及ぶことから調査事例が少なく、この結果、未解明な点も多い。そこで、筆者は、2013年に開花した開花地を含む林床において、稈動態を継続的に調査を行うことで、開花がササ個体群にもたらす影響の解明を試みた。また、シナノザサの開花が森林更新にもたらす影響を明らかにするために、ササ開花地における木本実生についても、継続的な調査を行っている。
調査は、長野県松本市上高地の徳本峠登山道沿いにある土石流ローブ上のウラジロモミ林で実施し、ササの開花箇所を含む6ヶ所に1 m四方の方形区を設置し、方形区内の稈の記録を行ってきた。また、2017年に開花が見られた1地点には、5 m四方の方形区を設置し、木本実生の生育も計測した。
6方形区のうち、1つは2024年までほとんど開花稈が見られず、ササの根際断面積合計が増大傾向にあることから、ササのバイオマスが安定して増大していた。一方、2つでは2013年の開花後、根際断面積合計が落ち込み、2024年に至っても回復していない。さらに、2013年に開花した方形区の2つは、2013年の開花後の根際断面積合計の落ち込みはほとんどみられず、根際断面積合計は回復傾向であったが、この内1つでは、2023年から再度開花が生じ、根際断面積合計は急減した。2013年に開花が生じなかった1つの呆けいくでは、2017年から開花が生じ、根際断面積合計が低下した。なお、いずれの開花の際も、方形区内全ての稈が枯死するわけではなく、半数以上の稈は枯死していない「部分開花」の状態であった。
2017年に開花が生じたプロットにおいては、樹高30 cm程度のハウチワカエデとチョウセンゴミシが見られたが、その後7年間にわたる計測でも、個体サイズの増加は見られず、林床で笹が枯れたことによって生じた空間はオクノカンスゲやオシダなどの他の草本種によって被覆されていた。