| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-023 (Poster presentation)
過去の植生景観は、おもに低地域から得られた植物化石を材料として復原されることが多い。これを空間的に補う観点で、台地上の堆積物について、保存性の高い化石である植物珪酸体を利用した研究事例が期待される。特に、既存データを有する低地と隣接した台地上は、当時の地形ごとの空間的な植生配置を明らかにする上で重要である。そこで、東京都内の台地上遺跡におけるローム上の黒ボク土層、およびそこに築かれた近世初期遺構の空間的同位層準について植物珪酸体分析をおこない、武蔵野地域における縄文時代以降の植生景観を明らかにした。
調査地である四谷一丁目南遺跡では、東京都新宿区南東端の若葉東公園内における、新たな赤坂迎賓館前公園施設の整備事業にともなって、埋蔵文化財発掘調査が進められた。江戸城外堀普請が完成した寛永13(1636)年の盛り土を除去した後に、江戸時代初期の遺構面が広く認められ、一部で方形区画の溝が配された耕作跡とみられるものも検出された。その構成層を含めた深掘地点およびその周囲地点にて、層相観察するとともに植物珪酸体分析用の試料を採取した。
堆積物から産出した植物珪酸体化石群について、主要な分類群の層位変化に基づく4つの分帯、下位よりⅠ~Ⅳ帯を設定した。1帯はササ属が多産、Ⅱ帯はススキ属とネザサ節の増加、Ⅲ帯はササ属の減少、Ⅳ帯でシバ属の増加とイネ、ヒエ属、ヨシ属に加え、スゲ属の出現で特徴づけられた。以上より、縄文時代のササやススキ草原が広がる様子とともに、その後の近世初期にいたるまで耕地として稲作をおこなっていたことが示唆された。