| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-025 (Poster presentation)
カミキリムシ科 Cerambycidae は国内に約700種類が知られ、成虫は葉や花を餌資源とし、幼虫は植物体内の木質組織を摂食する。本科は植食性であり、森林の各層に様々な微小生息地を有し、群集の組成と構造は群落の階層構造に依存すると考えられるが、これらの関係性に関する知見は少ない。そこで本研究の目的は本科群集と微小生息地との関係性から、森林の環境評価および生物多様性評価の新規手法の開発に資することとした。群集調査は長野県中南部4地点で上・中・下層の3階層別によるルートセンサス法を用いて実施された。1.5 km のルートを計8本設定し、3分割した500 m小区における出現種のアバンダンスデータを解析に用いた。また、相観的植生調査は年1回実施された。各小区・階層別の種群の偏りがG検定によって検証された。群集解析として多様度指数の算出、TWINSPAN、DCA解析が実施された。また、個体数と多様度指数についてSpearmanの順位相関係数ρを求めた。さらに、幼虫期における餌資源の選好性による種群分類が行われた。全調査で4亜科17族83種791個体が確認された。ハナカミキリ亜科とフトカミキリ亜科が最優占種群であり、特定の小区で種群の偏りは確認されなかった。階層別では上層で亜科・族別に偏りが確認された。多様度指数による評価はハナカミキリ亜科が優占する小区で種数と均一性が評価された。一方でフトカミキリ亜科が優占する小区はTWINSPAN解析で餌資源植物が生育する環境別に群集が特徴づけられ、渓畔林や土場環境の重要性が示唆された。微小生息地の重なりと各種群の多様性から、落葉広葉樹林では渓畔林の保全が本科の多様性保全に重要であることが示された。林業分野では、択伐によって適度に空間を生み、開花植物などの広葉樹資源を維持しながら複層化を目指すことで、本科群集の多様性保全に繋がると考えられた。