| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-026 (Poster presentation)
動物に送粉される植物において、開花時間の違いは送粉の機会を直接制限するため、強力な生殖隔離機構として機能する。特に、開花時刻は主要な送粉者の活動時間と相関することが多い。しかし、開花時刻が異なっていても、花の寿命が長い場合には開花時間が重複し、生殖隔離の効果が低下する可能性がある。
キスゲ属のオオゼンテイカとマンシュウキスゲは、それぞれ朝開花・夕方開花という違いがあるが、花の寿命が一日であるため、開花時間の大部分が重複する。そこで本研究では、この2種が分布するロシア沿海州において分布調査を行い、ゲノムワイドSNPおよび全ゲノムリシーケンスデータを用いて、現在種間で遺伝子流動が生じているのか、また種分化の過程で遺伝子流動が生じた時期があったのかを検証した。
まず、集団間の相対的な遺伝子流動および種間のIsolation by Distanceを推定し、現在の遺伝子流動を評価した。その結果、遺伝子流動は各種内または雑種集団内でのみ生じていることが示唆された。次に、集団動態モデリングを用いて過去の遺伝子流動を推定したところ、種分化の初期には遺伝子流動が認められず、その後の二次的接触によって低レベルの遺伝子流動が生じたことを示すシナリオが支持された。さらに、リシーケンスデータを用いてゲノムレベルでの遺伝的分化を比較した結果、absolute differentiation (DXY) はゲノム全体で比較的一様であったのに対し、relative differentiation (FST) は特定の領域で高い値を示した。このようなDXYとFSTのパターンは、異所的な自然選択によって生じることが一般的である。
これらの結果から、オオゼンテイカとマンシュウキスゲは異所的に種分化した後、局所的な二次的接触によって種間で遺伝子流動が生じるものの、遺伝的分化には地理的な隔離が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。