| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-027 (Poster presentation)
東北地方南部沿岸域の生態系は,2011年の地震・津波とその後の大規模な防潮堤建設により大きな影響を受けた。本研究では福島県相馬市松川浦を取り上げ,復興事業後の海浜植物のハビタットについて述べる。松川浦は海跡湖で,南北方向に長さ7 km,幅100-600 m程度の砂州(大洲)により太平洋と隔てられている。大洲には連続したクロマツ林が整備され松川浦県立自然公園として親しまれていたが,津波により被災して砂州全域で地形が変化するとともに,全面的に裸地化した。破壊された部分には一時的に海浜・湿地の植物が出現したが,その後の防潮堤整備と盛土・クロマツ植栽により現在までにこれらはほぼ消失し,海浜植物が生育はほぼ防潮堤の外側に限定されることになった。大洲は太平洋に正対することから浜を守るため汀線には多数の消波ブロックが置かれ,防潮堤は汀線から30-60 mの幅をとって整備された。この部分にて2023年夏に立地分類と植生調査をおこなった。砂浜部分は傾斜がほとんどなく,防潮堤脚部近辺では工事による砂の改質もみられた。防潮堤脚部下部には高さ50 cm-1 m程度に砂が吹き溜まっていた。浜に降りるため防潮堤には一定区間ごとに階段が設けられ,防潮堤斜面からわずかに突出しているため,階段横では防潮堤斜面に沿って最大高さ6 mまで砂がたまっていた。砂浜部分での海浜草原の発達は悪かったが,防潮堤脚部下部と階段横の砂だまりにはコウボウムギ,ケカモノハシ,ハマヒルガオ,ハマニンニク,シロヨモギ等の海浜群落が成立していた。浜の一部に消波ブロックのない部分があり,ここでは防潮堤斜面の砂だまりが顕著で,海浜植物群落の発達も良好であった。防潮堤により生育範囲が極度に制限されても,砂が動く立地環境があれば海浜植物群落が成立できることが明らかとなった。