| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-029  (Poster presentation)

甑島に成立する草原の変遷と植物の種多様性
Plant species diversity and changes in grasslands established on Koshiki Island, southwest Japan.

*川西基博, 金子俊太, 上田鈴(鹿児島大学)
*Motohiro KAWANISHI, Syunta KANEKO, Suzu UEDA(Kagoshima Univ.)

鹿児島県甑島列島の草原はカノコユリやニシノハマカンゾウなどに代表される草原性植物の自生地として知られる.かつて甑島列島ではユリ根の採取を目的としたカノコユリの栽培が盛んに行われており,各島にひろく草原が成立していた.しかし,現在は草原が消失したり面積が縮小したりしている地域が少なくない.1946年以降顕著に面積が減少したのは,中甑島小池地区など主にユリ栽培のために維持されてきた半自然草原であると考えられた.一方,東シナ海側の海食崖に面した下甑島赤崎地区の草原は縮小しておらず形状がほとんど変化していなかった.この赤崎の草原は火入れなどの人の管理の情報がないことから,自然性の風衝草原である可能性が考えられた.下甑島片野浦地区の草原は,縮小傾向にある地域と長期間草原が維持されている地域の両方が見られた.近年火入れなどの管理は行われておらず,植生遷移の進んだ部分が森林化していると考えられた.残存している草原の縁辺の木本植物の定着と草本植物の生育状況を明らかにした結果,冬季季節風の風衝側にあたる北西向き斜面ではクロマツ稚樹がほとんど定着していなかったが,風背側にあたる南向き斜面では多数のクロマツ稚樹が定着していた.このことから,片野浦の草原は人の管理によって成立した半自然草原と,自然性の風衝草原が混在していることが予想された.一方,甑島列島には切り立った海食崖にもダルマギクやツメレンゲなどの生育する自然性の草本群落が成立している.この海食崖草本群落と半自然草原および風衝草原の草本群落の種組成を比較したところ,共通種が認められた一方で,それぞれの群落に特有の種もみられた.以上の結果から,甑島列島では成因と立地環境が異なる複数のタイプの草原植生が成立しており,それぞれに特有の草地性植物が生育することで,全体として草原性植物の種多様性が増大していると考えられた.


日本生態学会