| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-035  (Poster presentation)

京都府の冷温帯林におけるカブトゴケ属(Lobaria)の景観規模での遺伝的多様性【A】
Genetic diversity of Lobaria at the landscape scale in Japanese cool-temperate forest【A】

*杉本廉(神戸大学), 橋本陽(理化学研究所), 東若菜(神戸大学), 大熊盛也(理化学研究所)
*Ren SUGIMOTO(Kobe Univ.), Akira HASHIMOTO(Riken BRC), Wakana AZUMA(Kobe Univ.), Moriya OHKUMA(Riken BRC)

カブトゴケ属(Lobaria (Schreb.) Hoffm.)は子のう菌門チャシブゴケ綱ツメゴケ目ツメゴケ科に属する地衣形成真菌類である。本属の属するツメゴケ科の多くの種は原生的な森林を生育の中心地としているため、地球規模での原生的な森林の減少に伴って生育地が減少している可能性があり、既に国際自然保護連合によって本科全体を国際レッドリストに掲載する提案もなされている。Lobariaは他の希少な地衣類種と生育地を共有しているため、その地域の地衣類種構成を推定する代表種としても注目されている。しかし、日本においてLobariaの種分布の調査は道半ばであり、本属の保護という観点はおろか生態学的研究が著しく遅れている。日本産Lobariaは現在22種認識されており、本研究で注目する狭義Lobariaに属する種(以降Lobaria spp.)は14種である。調査地である京都大学芦生研究林には、林内に点在する原生的な森林にLobaria spp.の生育が複数確認できる。そこで、本研究では日本の冷温帯林における景観規模でのLobaria spp.の地理的分布と遺伝的多様性を明らかにすることを目的とした。2021年4月から2022年11月までに調査地内の主要な3つの谷沿い合計約8.3㎞を踏査してLobaria spp.の地衣体を計60個採集し、生育地点のGPS情報を記録した。採集した地衣体は従来の形態分類に基づき同定したのち、DNAのITS領域の増幅に成功した51個の配列を用いて系統解析を行った。その結果、形態同定においては5種が同定された一方で、系統解析においては8つのクレードに分かれ、うち3系統は芦生産独自の新規クレードを形成した。各生育地点の種組成について階層クラスター解析を行った結果、Lobaria spp.の系統群に基づく種組成は調査地内の東西で大きく二分され、詳細には4つの区域に違いがある可能性が示唆された。希釈法により4つの区域の系統群の多様性を比較したところ、調査地内で系統群の多様性が最も高いのは北西部であることが明らかになり、ここは特に原生的な森林が残る区域であった。


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