| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-036 (Poster presentation)
最近我々は、繊毛虫が海産緑藻の遊泳細胞を捕食する新たな食物網経路を発見した。しかし、緑藻の配偶子や遊走子などの遊泳細胞が繊毛虫によって消化された後、増殖にどのような影響を与えるか不明だった。本研究では、繊毛虫の餌資源として緑藻の遊泳細胞がもたらす効果を明らかにするための実験系を構築し、特に緑藻の遊泳細胞が繊毛虫の増殖に与える影響の解明を試みた。北海道室蘭市ボトフリナイ浜で採集した繊毛虫(Amphisiella sp.)から培養株を確立した。餌となる微生物を含んだ培養液を用いて、Amphisiella sp.を利用した実験系構築のために必要な、初期細胞数と培養温度を、各条件の細胞密度の経時変化をもとに選定した。緑藻遊泳細胞の餌資源としての効果を究明するために、Amphisiella sp.と同所的に採集したアオサ藻綱の海産緑藻エゾヒトエグサの配偶子を給餌し、繊毛虫の細胞密度の経時変化を調べた。各条件を比較すると、初期細胞数が3個以上の場合で早期に細胞密度が上昇した。異なる温度条件における培養では、14℃以上で細胞密度が顕著に上昇し10℃以下では増殖不良が確認された。このため、初期細胞数5個、2つの温度条件(10℃, 18℃)で、エゾヒトエグサの配偶子の給餌実験を行った。その結果、配偶子を与えたグループが配偶子を与えなかったグループよりも増殖率が大きくなる傾向があった。10℃以下のAmphisiella sp.の増殖不良は、低温による微生物の増殖不良に起因したのではないかと考えられる。エゾヒトエグサの配偶子を与えたAmphisiella sp.が増殖したことから、海産繊毛虫にとって海産緑藻の遊泳細胞は有効な餌資源となり得ることがわかった。室蘭沿岸の海水温が10℃を下回る期間は、海産緑藻の遊泳細胞によって微生物の減少に起因する繊毛虫の餌不足が、補われている可能性がある。