| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-037 (Poster presentation)
系統的多様性は種の系統情報を考慮した多様性指標であり、群集集合パターンの背景にあるメカニズムの推定において有用である。菌類の系統的多様性に関しては、これまで標高傾度や氷河後退域の一次遷移系列、宿主植物種間での比較、落葉分解速度との関連などに注目した研究が行われてきた。本研究で対象とするクロサイワイタケ科・クロコブタケ科菌類は子嚢菌門クロサイワイタケ目の近縁科であり、内生菌、落葉分解菌、木材腐朽菌の主要構成群であるが、本邦における系統的多様性について報告はない。本研究では、樹木葉に生息するクロサイワイタケ科・クロコブタケ科の内生菌・分解菌を対象に、系統的多様性と樹種間差・気候との関連を明らかにすることを目的とした。本邦の北海道から沖縄に至る、のべ18地点99樹種の生葉と落葉から分離された菌類について、rDNA ITS領域と28S領域の塩基配列に基づく系統的多様性を定量化した。系統樹は最尤法(ML法)と近隣結合法(NJ法)で作成し、系統的多様性指標として、系統樹の枝長の総和であるFaith's PD、すべての種のペア間の系統的距離の平均値であるMPD、各種とその最も近縁な種の系統的距離の平均値であるMNTDを求め、標準化した効果量(SES)を各指標で算出した。その結果、ML法とNJ法で似た系統樹が得られ、系統的多様性指標の結果も2法で同様の傾向を示した。内生菌の系統的多様性は亜熱帯林よりも冷温帯林で低かった。落葉の樹種間で、分解菌の系統的多様性に差が認められた。また、分解菌の系統的多様性は緯度が高いほど、また降水量が少ないほど低くなる傾向が認められた。これらの結果から、気候条件や宿主樹種が特定の系統の種の出現に影響を及ぼしうることが示唆される。今後は、気候条件の異なる複数の地点、未調査の樹種でさらに調査を行うとともに、複数の遺伝子領域に基づく分類をより反映した系統樹で系統的多様性を評価する必要がある。