| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-039  (Poster presentation)

都会の鳥のリスク回避行動:初めて出会う動物への反応から
Risk-taking behavior in an urban population of Japanese tits

*濱尾章二(国立科学博物館)
*Shoji HAMAO(Natl Mus Nat Sci)

都市化した環境にすむ動物は、本来の生息環境(例えば森林)にすむものとは異なる行動特性を持つ場合がある。特に、都会に進出した動物は見知らぬ動物に出会うことが多く、リスクをとりながらもそれらをよく確認し、捕食者、競争者、餌生物などのいずれであるかを正しく判断することが必要となるだろう。演者はすでに、東京都心と茨城県農村部で6種の鳥について、東京では人に対するリスクを回避しない傾向がある(人が近付くまで逃げない)ことを明らかにした。これは、都会にすむ鳥が人に対してだけ特異的な反応をすることが現れているのだろうか。あるいは、都会にすむ鳥は捕食者の可能性がある動物全般に対してリスクを回避しない行動特性を身に付けているのだろうか。この疑問を解くためには、剥製提示実験や音声再生実験が有効だろう。ただし、捕食者(例えばオオタカ)を提示すると、それとの遭遇頻度が都会と本来の生息地の間で異なることから、被験体の反応に影響してしまう可能性があり、動物全般に対するリスク回避行動を計るうえで問題がある。そこで、本研究では、都会と本来の生息地のシジュウカラに対して、リスクを感じるであろう未知の動物の剥製を提示して反応を調べ、両者の反応を比較することを試みた。実験は3月下旬から4月下旬、東京都心と茨城県農村部で行った。モデルは、オコジョ(冬毛)の剥製の頭部を除いて黒褐色に染めたものである。シジュウカラを同種の集合音声で誘引した後、剥製を提示し、2分間反応を記録した。その結果、都会の個体は田舎の個体よりもオコジョ剥製への最接近時の距離が短く、また剥製から近距離(2 m以内)にいる時間が長かった。このことは、都会のシジュウカラは、人に対してだけでなく、動物全般に対するリスクを回避しない傾向があることを示唆している。


日本生態学会