| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-040  (Poster presentation)

盗葉緑体と大規模再生を行う嚢舌類イズミミドリガイの走光性と光受容【A】
Phototaxis and photoreception in the sacoglossan Elysia nigrocapitata, with kleptoplasty and large-scale regeneration.【A】

*保田海, 遊佐陽一(奈良女子大学)
*Umi YASUDA, Yoichi YUSA(Nara Women's Univ.)

嚢舌類の一部には、餌の藻類から葉緑体を取り込んで光合成に用いる盗葉緑体という性質がみられる。これらの種では効率よく光を受容するために正の走光性が備わっているが、そのメカニズムは解明されていない。また嚢舌類Elysia属の2種では、首元の自切面で心臓を含む体の大部分を切り離し、そこから新たに心臓を含む体を再生可能であることが発見された。本実験では、イズミミドリガイElysia nigrocapitataを用いて、目の除去および頭部と体部の切断後の走光性の有無を確認した。
実験対象として、2023年7月にせんなん里海公園で採集したイズミミドリガイを用いた。I字型の水槽に人工海水を入れ、水槽の片側から光を照射した。この水槽の中央に個体を置き、走光性の有無と30分後の個体の位置とその場の光強度を記録した。まず、無処理の個体と両目の眼球を除去した個体を用いて実験を行った結果、眼球の有無に関わらず、正の走光性がみられた。次に片目のみを除去した個体を用いて実験を行ったところ、片目のみでも正の走光性がみられた。また片目を除去した個体に対して左右それぞれ一方から光を照射して同様の実験を行ったところ、光源のある側に眼球があると正の走光性を示し、光源側に眼球が無いと走光性がみられなかった。さらに個体を首元で切断し、頭部と体部に分けて実験を行った結果、頭部には正の走光性がみられたが、体部には走光性がみられなかった。
イズミミドリガイは眼球が無くても正の走光性を示すため、眼以外の部分にも光受容器があることが分かった。また、片目のみの個体を用いた走光性実験から、眼は光の大まかな方向を知るために用いられている可能性がある。さらに、頭部のみでも光を受容して正の走光性を示すことができる一方、体部には光受容器が存在しないか、十分に移動することができなかったために体部のみでは走光性がみられなかったと考えられた。今後、目以外の光受容器の特定を行う必要がある。


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