| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-041 (Poster presentation)
順位制とは、個体間に固定化された序列が形成される社会構造の一つである。爬虫類は一般に社会性が低いと見なされてきたが、近年では順位制を含めた複雑な社会構造を有する種の存在が明らかになってきた。社会性の発達度合いが多様な分類群において、順位行動などの社会行動の詳細について調べることは、社会性の起源や進化メカニズムの解明の端緒となることが期待される。トカゲ類の社会行動でよく用いられる視覚ディスプレイの1つとして、前腕を円を描くように回転させる行動である腕振り行動が知られる。この行動は捕食者と対峙した際や同種他個体に出会った際に用いられており、複数の機能をもつことが示唆されているが、トカゲ類のうちアガマ科などの複数のグループでは順位行動としての機能を示すと考えられている。カナヘビ科においても、多くの種が腕振り行動を示し、同種個体に対し威嚇や服従を示す機能をもつと推測されてきた。カナヘビ科からは順位制の存在は知られておらず、この行動が順位行動であることを定量的に示した研究はないものの、多くの種に共通するこのディスプレイが順位行動だとすれば、カナヘビ科では順位制を有することがむしろ一般的である可能性がある。カナヘビ科の日本固有種であるニホンカナヘビも、同種個体間で腕振り行動を行うことが知られている。これまでの研究から、本種の腕振り行動は他個体の接近を抑止し、逃避を促す機能をもつことが示唆されており、順位行動である可能性がある。そこで、ニホンカナヘビの腕振り行動が順位行動としての機能をもつという仮説を室内実験により検証した。2024年4~9月に野外から採集した本種2個体を実験アリーナに30分間放逐し、腕振り行動の発生個体の組み合わせや行動の前後関係を分析した。さらに、本種9個体を3×3mのアリーナに放逐し、個体間相互作用を観察することで、仮説の妥当性について検討した。