| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-042 (Poster presentation)
カモフラージュにより捕食回避する動物は,捕食回避効率が高くなる背景を選択しうる.捕食者にとって餌とならないものに似ることで,獲物として認識されることを防ぐカモフラージュ戦略はマスカレードと呼ばれる.そのような戦略をとる動物は,自身と似たモデルが多く存在するマイクロハビタットを利用しやすいと考えられる.
ノミハムシ類(甲虫目:ハムシ科)の成虫は,自身の外見と似た食痕を葉上に形成し,マスカレードを行う可能性が示唆されている.暗色のホソルリトビハムシは,食草であるアケビの葉上に穴の空いた暗色の食痕を形成する.食痕のある葉は餌資源量が少ない一方,ハムシの捕食回避効率を高めると考えられる.そのため,特に捕食圧が強い昼間には,ハムシは食痕のある葉をマイクロハビタットとして利用しやすいと予想した.
この仮説を検証するため,ホソルリトビハムシを用いて葉の選択実験を行った.食痕を模した穴のある葉と,縁に切れ込みを入れた葉を,底面を黒くした(穴が黒く見える)シャーレに入れ,明るい場所でハムシに葉を選択させた結果,予想通り穴のある葉を有意に多く選んだ.しかし,穴の数を少なくした場合や,シャーレの底面を白くした(穴が白く見える)場合は,穴のある葉をより多く選んだものの有意差はなかった.さらに,夜を再現した暗い場所に置いた場合は,いずれの葉も同程度で選んだ.すなわち,明るい条件下において,ハムシは捕食回避しやすい葉を好むことが示唆された.
また,野外においても昼間にのみ食痕のある葉を利用しやすいか検証するため,ホソルリトビハムシの野外観察を行った.野外観察では,昼間と夜間にそれぞれハムシがついていた葉の食痕の有無を記録した.その結果,昼間でも夜間でも多くの個体が食痕のある葉に見られた.これは,夜間の観察を実施した時間帯が早く,昼間における葉の選択の影響が残っていたためと考えられた.