| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-043 (Poster presentation)
チョウは飛翔や産卵などのために花蜜を必要とする。また、チョウの一連の採餌行動は「花の発見」と「蜜の発見」という2つの過程に分けられ、これらの探索行動にはエネルギーや時間といったコストがかかる。こうした問題に対し、チョウは蜜が得られた花の色を学習し花の発見の効率化を図ることなどが知られている。また蜜の発見についても、花上の蜜が得られた場所の色を学習することなどが報告されている。訪花性のチョウは色覚に優れるため、採餌行動の最適化について花の色に焦点を当てた研究が多く行われてきた。しかし、花には色以外にも、花弁のつくる角度や花弁の傾斜により花の内部に生ずる影など、チョウが利用し得る情報があるものの、これらは昆虫が利用する花の形質としてこれまで重要視されてこなかった。そこで、本研究ではチョウがコスト削減のために、これらの形質を利用し、花や蜜の探索を行うかを検証するためナミアゲハPapilio xuthusを用いた行動実験を行った。
花弁が水平な花と花弁に角度がある花をナミアゲハに提示し、それぞれの花での吸蜜成功率を比較したところ、メスの吸蜜成功率は角度がある花で有意に高かった。次に、水平な花と角度があるが花弁の表面積が小さい花を同時に提示したところ、オスメス共に角度がある小さい花を有意に選択し訪れた。つまり、アゲハは花弁に角度のある漏斗状の花を好むことが明らかになった。次に、そうした漏斗状の花を見つける為のシグナルとして花弁の傾斜により花の内部に生じる影を利用するかを調べるため、全体が同じ明るさの花と中央部のみ明度を半減させ影を模した花を提示したところ、メスは後者を有意に選択した。また、オスではどちらにも選好性を示さなかった。これらのことから、アゲハは花弁のつくる角度や花弁の傾斜により花の内部に生ずる影を花の選択や蜜の発見に利用し採餌効率の最適化を図るが、この機構の発現は性差に依存することが示唆された。