| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-046 (Poster presentation)
環境条件に対応して利用地域や移動時期を不規則に変える遊動的な種では、移動生態の理解の鍵となる個体群密度や群れサイズ動態などの情報取得が難しいが、動物装着機器と解析技術の進歩がこの困難を克服しつつある。そこで、モンゴルの草原地帯を遊動的に移動する有蹄類モウコガゼルを対象に、カメラ付GPS首輪を用いて、移動パターンの地域差、性差や群れ動態の季節変化を明らかにすることを目的とした。2023年9月にモウコガゼル分布域内の比較的湿潤な北部と砂漠に近い南部で首輪を装着し、位置情報と日中1時間おきの15秒間動画を記録した。解析には、90日以上のデータを回収できた18個体(北部メス:6、北部オス:5、南部メス:5、南部オス:2)を用いた。このうち1年後まで生存したのは5個体(メス2,オス3。北部3,南部2)であり、残りの13個体は5月までに死亡した。追跡期間中の2点間の最大直線距離は、個体により82 kmから614 kmの幅があり、上位4個体はメスだった。北から南への614 kmの移動はモウコガゼルの直線的移動の最長記録である。また、本地域では2002年から継続的にモウコガゼルが追跡されてきたが、北部と南部で追跡を開始した個体間での行動圏重複が初めて確認された。この冬には記録的な寒波や積雪による家畜の大量死が発生しており、極端気象が遊動的な動物の死亡率だけでなく、移動パターンや個体群間交流にも影響することを示唆する。動画から検出された周辺他個体数は、ほとんどの個体で11月または12月から減少し、1年間追跡できた個体では9月頃から再び増加した。また、角の有無を判別できた画像のうち、角あり(オス)の割合はすべての追跡個体で全期間平均16–35%の幅に収まった。これまで定量的・継続的に記録できなかったこれらの情報は、観察が困難な動物の移動生態研究に大きく貢献すると期待される。