| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-048  (Poster presentation)

足場糸との距離がクモの横糸建築行動に与える影響
The effect of the distance between a spider and scaffolding threads on its spiral buildings

*中田兼介(京都女子大学)
*Kensuke NAKATA(Kyoto Women's University)

クモの円網は、全体を支える枠糸、中心から放射状に周囲に延びる縦糸、らせん状に張られ粘着性を持つ横糸から構成されることが一般的である。加えて造網時には、枠糸と縦糸が完成した後らせん状に緩く足場糸が張られる。足場糸はクモが横糸を建築する際の移動の助けとなり、クモは横糸を張りながら足場糸を除去する。足場糸はおおむね横糸5-6本おきに張られており、横糸は外から内への順に張られるため、クモは横糸建築の周回ごとに足場糸との距離を調整しながら造網を行う必要があると考えられる。本研究では、ギンメッキゴミグモCyclosa argenteoalbaの造網時の動画から横糸建築時の頭胸部先端、腹部先端、腹部後端の3点の位置座標を取得し、造網時の姿勢情報を1/30秒の精度で得た。その結果、移動中の網の上下左右のセクターによって、姿勢を一定に保ったまま横糸を張っている場合と、頭胸部と腹部を一直線にしたあと腹部を外に振り出すことを繰り返しながら横糸を張っている場合の両方が見られ、どのセクターでどちらの方法を使っているかには個体差が見られた。また、異なる周回時において、腹部後端は一定間隔の距離を置いて移動している(その結果横糸が等間隔で張られることになる)一方で、頭胸部先端は移動に使う足場糸が同じであればほぼ同じ場所を通過していることがわかった。このことは、腹部後端と頭胸部先端の軌跡の間の距離が、同じ足場糸を使っている間は外から内に進むにつれ小さくなる一方で、使用する足場糸が変わった時に大きくなることを示している。また、この軌跡間距離は横糸の建築速度に影響し、距離が小さいほど、すなわち足場糸と横糸との距離が小さくなるほど速度が小さくなる傾向が見られた。このことは、横糸を付着させる場所が空間的に制約されることがクモの行動を遅くさせていることを示唆している。


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