| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-051 (Poster presentation)
ウスバカゲロウ科の幼虫には,砂地にすり鉢状の巣穴を作り落ちてきた獲物を捕食する種(営巣性)と,巣穴を作らず通りがかる獲物を待ち伏せする種(非営巣性)がある.前者はその捕食行動について多くの研究が行われてきた一方,後者の捕食行動の研究はほとんど行われていない.Jingu & Hayashi (2018)は,非営巣性のコカスリウスバカゲロウDistleon contubernalis(以下,コカスリ)の幼虫が岩や木の根などの近くで待ち伏せし,それらに沿って移動する獲物を効率的に捕食することを明らかにした.しかし,他の非営巣性のウスバカゲロウも同様の捕食戦略をとっているかは不明である.
本研究では,非営巣性のオオウスバカゲロウSynclisis japonica(以下,オオ)の幼虫について,実験室内で捕食行動の撮影実験および,野外での待ち伏せ場所の障害物からの距離の測定を行い,コカスリと同様の戦略で捕食を行っているかを検証した.その結果,捕食実験において,オオは2齢幼虫で動画撮影時間当たり平均1.6個体,3齢幼虫で平均1.8個体の餌昆虫を捕食しており,平均移動回数は2齢幼虫3.6回,3齢幼虫で1.9回であった.コカスリのデータと比較すると,餌昆虫の捕食個体数には有意な差がなかった一方,オオの2齢幼虫はコカスリより有意に多くの回数移動を行っていた.また,オオもコカスリ同様,容器の壁側に多く定位する傾向があったが,獲物の捕食場所は容器の壁近くに集中してはいなかった.コカスリの研究では,野外で約26%が障害物から1.5 cm以内に定位していたが,オオでは2.0-23.1 cmの位置で待ち伏せをしており,1.5 cm以内には,1個体も見られなかった.
これらのことから,オオはコカスリよりも頻繁に移動を行い,コカスリとは異なる捕食戦略を行っていると考えられた.オオには,待ち伏せている砂の中から自ら姿を現し,獲物を追跡してとらえるという行動が観察されたことから,このような行動により捕食効率を向上させている可能性が考えられる.