| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-052  (Poster presentation)

ハマベハサミムシの左右非対称性と採餌行動
Effect of forceps asymmetry on foraging behavior in an earwig Anisolabis maritima

*熊野了州, 飯田依未(帯広畜産大学)
*Norikuni KUMANO, Emi IIDA(Obihiro Univ Agr Vet Med)

生物の多くの形状は体軸を中心に左右対称となっており,対称性からのわずかなずれは「左右対称性のゆらぎ(変動非対称性, Fluctuating Asymmetry)」として注目され,多くの研究が行われてきた.これに対し,特定の形質が常に特定の方向に偏る非対称性は方向性非対称性(Directional Asymmetry: DA)と呼ばれ,生存や繁殖において適応的意義を持つことが知られている.しかし,その適応的意義を理解するためには,非対称性の発現条件やその程度に応じた適応度成分の変化を明らかにする必要がある.
ハマベハサミムシは世界的に分布するハサミムシ目の昆虫で,雌雄共に尾部に1対のハサミを持つが,雄は体サイズが大きくなるほど顕著に右側のハサミが湾曲する方向性非対称性(DA)を示す.また,この非対称性は成虫だけに見られ,幼虫は雌成虫と同様に左右対称なハサミを持つ.一般に,非対称な外部形態は闘争や採餌において不利であると考えられているが,本種では雄間の競争以外での利益はほとんど明らかになっていない.
本研究では,(1) 雄ハサミの左右非対称の発現条件を明らかにするための飼育実験,および(2) 非対称性が採餌行動に及ぼす影響を明らかにするための行動観察実験を行った.飼育実験の結果,富栄養条件で飼育された雄は,ハサミがより大きく湾曲し,幼虫期の栄養状態が非対称性の発現に影響を与えることが明らかになった.また,行動観察実験では,ハサミの湾曲が大きな個体ほど,体を左にひねって攻撃する採餌行動が確認され,左右非対称が採餌戦略に影響を与えることが示された.
これらの結果は,ハマベハサミムシの非対称なハサミが条件依存的な適応戦略である可能性を示唆している.発表では,これらの結果に基づき,本種の条件依存的な採餌戦略と方向性非対称性の進化的意義について議論する.


日本生態学会