| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-053 (Poster presentation)
動物は集団を形成することで,採餌や繁殖,希釈効果による捕食者回避などの利益を得ており,集団となる場所や集団サイズには,環境要因や個体間相互作用などに基づく個々の個体の意思決定が反映されている.多くの昆虫は単独で幼虫期・蛹期を過ごす一方で,卵が卵塊として産み付けられる一部の昆虫には,幼虫期から蛹期に至るまで集合性を維持するものも存在する.後者の蛹化様式は集団蛹化とも呼ばれ,集合性自体に適応的意義が存在すると解釈できる一方,単に分散能力の低い幼虫に起因する結果である可能性もある.しかし,昆虫の集団蛹化は稀な現象であることもあり知見は十分ではない.
甲虫目ハムシ亜科のクルミハムシは,クルミの葉で多数の個体が密にぶら下がり蛹化する(集団懸垂蛹化).幼虫には十分に分散能力があるため,集団蛹化は集合性に利益が存在する結果,もしくは蛹期に集合の利益が存在するためである.そこで,クルミハムシにおける集合性の適応的意義の解明を目的として,以下の3つの実験を行った.幼虫期の利益に対する2つの実験として,①植物の質と幼虫の行動の関係に注目した,健全な葉と他個体が食害した葉での選択実験,②幼虫を単独と集団に分けて摂食効率を比較する実験.蛹期の利益に対する実験として,③蛹期における捕食者の存在と集団内の血縁関係を操作して各処理で蛹化した個体間の距離を比較する実験を行った.その結果,他個体による摂食は幼虫の葉の選択に影響せず,集団摂食は成長を効率的にするとは言えなかった.また,捕食者や血縁に関する操作をしても集団蛹化の密度に有意差は見られなかった.これらの結果は,他個体による摂食の有無や捕食者,血縁関係は集合に影響しないことを示しており,現在のところ本種における集合性の利益は不明である.これをふまえ,実験とは異なる捕食者や寄生者からの回避など,クルミハムシの集団蛹化を引き起こす他の要因について議論する.