| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-054  (Poster presentation)

サッポロフキバッタの集団間交配が接触帯雌の再交尾に及ぼす影響【A】
Effect of interpopulation crosses on remating frequency in brachypterous grasshopper Podisma sapporensis【A】

*粂井詩帆, 熊野了州(帯広畜産大学)
*Shiho KUMEI, Norikuni KUMANO(Obihiro Univ.)

多くの生物で集団間交配が生じる接触帯は,種分化過程の解明に重要なプロセスの場である.北海道に生息するサッポロフキバッタPodisma Sapporensis Shiraki(以下,サッポロ)は,染色体再編成が生じ,道央と北部に分布するX0レース(基本型)と道東に分布するXYレース(変異型)が存在し,それらは北海道北部と中央部で接触帯を形成している.レース間交配は配偶子不和合性による適応度低下を招くため,接触帯個体は集団間交配を未然に防ぐメカニズムを持つと考えられる.しかし,地域集団を用いた先行研究では,接触帯集団でも交尾前隔離機構を持たない可能性を示しており,本種は交尾後の雌の繁殖の差異が適応度低下回避策として機能している可能性がある.しかし,サッポロにおける交尾後の雌の繁殖行動は未調査であり,集団間交配が交尾後の雌の繁殖に与える影響とそれに対する適応度低下を回避するメカニズムは不明である.そこで本研究では,サッポロの再交尾傾向に着目した集団間・集団内交配実験を行い,雄の由来・雌の由来の差異が雌の再交尾行動へ与える影響を調査した.2023年,2024年の5月から8月にかけて接触帯を含む3地点で採集し,実験を行った.採集地と配偶相手を操作した3つの処理区で再交尾率,再交尾後の産卵率,初交尾後の生存日数を算出した.その結果,再交尾率や生存日数には,雄雌の由来の影響はないものの,接触帯雌は高い産卵率を示し,非接触帯雌は不妊化を招いた.この結果から,接触帯雌は再交尾によって集団間交配がもたらす適応度低下を回避し,雌の再交尾による適応度の差異が接触帯維持を可能とする要因の一つである可能性が示唆された.発表では,集団間交配した雌の再交尾傾向がもたらす接触帯維持のメカニズムについて議論する.


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