| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-058 (Poster presentation)
円網はクモの糸によって構築される網構造の一種であり、円や楕円などの平面構造を基本としている。円網の構造は可塑的で、周囲な環境要因や自身の経験に応じて、網の構造や糸の性質を柔軟に変化させることが様々な種で明らかになっている。円網が張られる角度は、その機能を決定づける重要な要素の一つであり、地面からの角度に応じて“水平円網”と“垂直円網”に大別される。一般的に、円網の角度は餌資源の違いを反映していると考えられており、どちらのタイプの円網を構築するかは種ごとに概ね決まっている。
マルゴミグモ Cyclosa vallata はコガネグモ科ゴミグモ属に含まれる円網性のクモであり、自身の円網に卵嚢やゴミから成る装飾を並べるといった、ゴミグモ属特有の習性に加え、水平から垂直までの多様な角度の円網を張ることが知られている。本種で見られる網角度の変異は円網種全体の中でも例外的な性質であり、その適応的意義の解明が待たれている。そこで本研究では、マルゴミグモにおける多様な円網の角度の機能解明に向け、円網の角度の違いに応じて、円網の構造に変化が生じているかを調査した。野外で撮影した円網の画像から得た測定値から、円網の構造を特徴付ける5つのパラメータを、計算式を用いて算出し、円網の角度や装飾の有無などの複数の潜在的要因との関連性を検証した。一連の解析から、装飾が付いた円網において、サイズ非対称性の顕著な増大が確認された。加えて、円網の角度に応じて隣接する横糸の間隔が変化し、垂直円網よりも水平円網を構築する場合に、横糸が密に張られていることが明らかになった。本研究から判明した円網構造の変化は、本種における柔軟な採餌戦略を反映している可能性がある。