| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-062 (Poster presentation)
都市化の進行によって野生生物は都市での生活を余儀なくされる。都市特有の環境要因は多数あるが、騒音はその代表的なものである。騒音は音響コミュニケーションを妨げるため、鳥やカエル、直翅目昆虫等で騒音に対する音響信号への影響が調べられてきた。多くの研究が騒音による音響コミュニケーションの阻害を示し、騒音への可塑的・適応的な対抗も明らかにされてきた。一方で、動物は単一の信号だけでなく、鳴き声と色彩といった別々の感覚器官に受容される複数のmulti-modalな信号を用いることも多い。もし騒音下で音響信号が阻害されるなら、別の信号の重要性がより高まる可能性がある。しかし、このような騒音の影響が他の信号に与える影響は検証されてこなかった。コオロギの一種マダラスズDianemobius nigrofasciatusでは、都市と郊外のオスとで鳴き声に違いがあるが、都市のオスの声の方が騒音下でメスに定位されやすいわけではなかった。これは都市環境で音響信号の重要性が低下していることを示唆する。そこで、都市のオスの方が郊外のオスよりも音響信号以外の信号がメスをより惹きつけるのかを検証した。コオロギ類では体表炭化水素(CHCs)によってメスに求愛をおこなう。都市と郊外のオスのCHCsをろ紙に染み込ませメスに提示する実験の結果、都市のオスのCHCsの方がメスにより好まれることがわかった。この結果は、都市のオスが化学信号により投資していることを示す。さらに、都市と郊外のメスによって反応の強さが異なり、郊外のメスはより強く都市のオスのCHCsに反応することがわかった。都市では音響信号が阻害されやすく、さらに個体群密度も低いため、交尾相手に出会う機会が少ない。そのため、都市のメスはオスと出会うと強い選り好みを示すことなく相手を受け入れることを示唆する。