| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-063 (Poster presentation)
生物の形態や体色は捕食者-被食者系において多様な意味を持っており、特に両生類の幼生(オタマジャクシ)は防衛形質の誘導やそれによる捕食回避戦略の研究に用いられてきた。ニホンアマガエル(Dryophytes japonicus)の幼生では、捕食者であるヤゴ(特にクロスジギンヤンマのヤゴ)によって、高彩度のオレンジ色の尾が誘導されることがこれまで明らかになってきた。また、この呈色はヤゴの攻撃を尾へと集中させる「ルアー」として機能し、胴部への致命傷を回避する役割を担っていることも示唆された。一方でこの捕食者誘導表現型は、両棲類の中でもアマガエル属を中心に少数の種のみで報告されている特異なものであり、属内においても同一の捕食者によって黒色斑紋が誘導される種や形態・体色の変化が誘導されない種など、呈色パターンに多様性があることが明らかになっている。何故、属内でも限られた種のみで鮮やかな呈色が捕食回避戦略として進化してきたのかは未だ明らかになってはいない。
そこで私は、尾の呈色の遺伝基盤を理解・探索する目的で、トランスクリプトーム解析によって尾の呈色の有無による発現量の比較を行った。捕食者がいない条件下(対照群)とクロスジギンヤンマのヤゴ存在下でニホンアマガエル幼生を飼育し、飼育実験開始時点と各条件で2週間飼育した後に幼生の脳と尾部の組織片を採取し、その組織片についてRNA-Seq解析を行った。その結果、飼育実験開始2週間後において、呈色が誘導された個体では細胞ストレス応答に関わる遺伝子等の発現量が異なることが明らかになった。本発表ではトランスクリプトーム解析で得られた知見に加え、鮮やかな呈色を伴う捕食者誘導表現型の誘因・機能・遺伝基盤についてこれまでの研究で明らかになっていることを発表する。