| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-067 (Poster presentation)
生息密度は個体群動態に影響を及ぼす要因の1つであり,生息密度が低下することで個体の適応度が低下し,個体群が維持できなくなることがある.これは特に,低密度状態に陥った絶滅危惧種の保全管理においては重要な問題となる.宮古諸島に固有のミヤコカナヘビは,近年急速に個体数が減ったために,今でこそ絶滅危惧種とされるが,かつては人の生活圏を含む様々な環境でみられる普通種であった.現在確認されている生息地は宮古島内に広く点在している一方で,ほとんどの地点で発見個体数は非常に少なく,多くの個体が安定してみつかる高密度生息地は極めて限られている.これまでの調査で,低密度生息地と高密度生息地の植生環境には大きな相違は見いだせないことから,本種の個体群維持には高密度で生息すること自体がプラスに働いていた可能性が考えられる.そこで,生息密度の異なる生息地間で繁殖や生存に関わる生活史パラメータを比較し,生息密度の違いが適応度に与える影響を検討した.個体の一時捕獲により評価できる卵保持率,交尾痕率,肥満度については高・中・低の3密度区でデータを収集・比較し,標識再捕獲調査による成長率,繁殖開始齢,月間生存率は高・中の2密度区間で比較した.その結果,卵保持率は低・中密度区に比べて高密度区で有意に高かった.また,幼体の成長率は高密度区で0.24mm/day,中密度区で0.13mm/dayと,前者で有意に高かった.高密度区では幼体の一部は孵化後約3ヶ月で繁殖を開始するが,中密度区では年内に繁殖を開始した個体は確認されなかった.月間生存率も高密度区で有意に高かった.これらの結果は,生息密度の低下によって個体レベルでも繁殖・生存に関わる複数のパラメータが低下することを示唆している.本種における近年の急速な個体群衰退には直接的な生息地の減少・消失に加え,本種がもつ密度依存的な生活史特性も関与していると考えられる.