| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-069  (Poster presentation)

広域分布種クマノミにおける温帯個体群の局所適応【A】
Local adaptation of the temperate population in a latitudinally widespread anemonefish【A】

*北井大陽(九州大学), 吉田陽香(九州大学), 平瀬祥太朗(東京大学), 小北智之(九州大学)
*Taiyo KITAI(Kyushu Univ.), Haruka YOSHIDA(Kyushu Univ.), Shotaro HIRASE(Univ. of Tokyo), Tomoyuki KOKITA(Kyushu Univ.)

海洋環境は移動の障壁に乏しく,多くの海洋生物は浮遊生活期に海流や潮流によって広域分散するため,広範囲に分布する種が少なくない.このような広域分布種は新規環境に進出する際,祖先的集団の生息環境とは異なる自然選択を受けると想定され,遺伝子流動下での局所適応現象の潜在性が高いと考えられる.インド・太平洋の熱帯サンゴ域に起源をもつクマノミAmphiprion clarkiiは,属内で唯一日本列島の温帯域まで進出した種であり,南北方向に超広域分布を示す.クマノミ属魚類は海洋進化生物学のモデル種として近年注目されており,様々な実験手法や高精度な参照ゲノム情報が確立されているため,このような問いにおいても絶好のモデル系となる.本研究では,本種を用いて,熱帯性サンゴ礁生物の温帯域進出を可能とした表現型進化とそのゲノム基盤を探索した.熱帯,亜熱帯,温帯の各集団を対象に,多検体の全ゲノムリシーケンスに基づく集団ゲノミクス解析の結果,集団間のゲノムワイドな遺伝的分化レベルは極めて低かったものの,一部のゲノム領域に極端な遺伝的分化が確認された.このような高遺伝的分化領域には,運動や行動に関わる遺伝子群,概日時計に関わる遺伝子群,分子シャペロニン遺伝子などが存在し,我々が検出した温帯集団の表現型変異の実態と関連性が想定される遺伝子が数多く検出された.本発表では,表現型分化パターン,集団ゲノミクス解析,そして、RNA-seq解析に基づく比較トランスクリプトーム解析の結果を統合し,温帯集団における適応進化の実態とその遺伝基盤を紹介する.


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