| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-070  (Poster presentation)

二ホンザリガニにおける形態形質の個体群間変異【A】
Morphological diversity in the Japanese crayfish Cambaroides japonicus【A】

*林幸多郎, 和田哲(北海道大学)
*Kotaro HAYASHI, Satoshi WADA(Hokkaido Univ.)

 一般に、生物の形態には種内変異があり、種内変異は、さらに個体間変異、性差、個体群間変異に大別できる。淡水ザリガニ類でも多くの研究で種内変異が報告されているが、ニホンザリガニの形態形質の種内変異を報告した例はほとんどない。本種は日本の固有種であり、北海道や東北の一部の沼や川に生息している。沼と川は、水流、底質、捕食リスクなど多くの環境条件が異なるため、本種の形態も沼と川で異なるかもしれない。本研究は沼と川でニホンザリガニの形態形質の種内変異を記載することを目的とする。
 2024年の8-9月に、北海道南西部渡島半島にある沼と川で本種を採集した。川では、本種が遡上しにくい滝を挟んだ上流と下流で採集した。採集個体数は上流で109個体、下流で90個体、沼で47個体であった。その後、頭胸甲長、頭胸甲幅、鋏脚長、鋏脚幅、尾長、尾幅を測定した。統計解析では、沼と川、上流と下流で雌雄ごとに各部位の大きさを比較した。
 その結果、川の個体は沼の個体よりも頭胸甲が細く、尾部が大きかった。このことから川の個体は流れに対する耐性が高く、捕食回避能力が優れている可能性が示唆された。またザリガニの鰓の容積は甲羅の幅に比例するとされているため、沼の個体はより低酸素に耐性があるのかもしれない。上流の個体は下流の個体よりも鋏脚及び尾部が小さかった。このことは上流と下流の捕食圧の違いを反映している可能性がある。また上流の個体が小型化することで流れの影響を受けにくくなっている可能性も考えられる。また、各生息地において、オスでは鋏脚が大きく、メスでは尾部が大きかった。この形態的な性差は、メスをめぐる闘争や抱卵のためだと考えられる。


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