| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-073  (Poster presentation)

どの形質の遺伝的多様性が集団のパフォーマンスを向上させるか?
Which genetic trait variations enhance population performance in Drosophila?

*上野尚久, 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Takahisa UENO, Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

形質変異に注目することは、生物同士や環境との相互作用を理解し、生態系が構築される過程を解明するうえで重要である。その重要性は、生物多様性と生態系機能の関係においても例外ではない。従来の研究によって、種多様性や遺伝的多様性が個体群や群集、生態系の機能(生産性や安定性)を非相加的に向上させること(正の多様性効果)がわかってきた。ただし、多くの先行研究は、その豊富さに注目しており、形質変異それ自体にはあまり注目してこなかった。すなわち、どの形質の(どれだけ多くの形質の)変異が多様性効果をもたらすのかについて、ほとんど検証されていないのである。そこで本研究では、野外から確立した遺伝的に異なるオオショウジョウバエ(Drosophila immigrans)の12系統を用いることで、種内における多様性効果に寄与する形質変異を探索した。まず、1系統で構成される遺伝的に均一な集団と2系統から構成される遺伝的に多様な集団を実験的に作成し、それらの生産性を定量した。なお、多様性効果は、多様な集団が示す生産性とそれに使用した系統の均一集団が示す生産性の平均値との差から計算した。つづいて、RAD-seqで得た塩基配列から2系統間のゲノム距離を算出し、多様性効果との関係をみたところ、コーディング領域のみで計算したゲノム距離が大きいほど、多様性効果が顕著に向上していた。機能的な多様性が多様性効果の変化に重要であると考えられる。さらに、21種類の形質をそれぞれ測定し、全形質または各形質の2系統間の表現型距離を算出した。ゲノム距離と全形質の表現型距離に顕著な相関はみられなかったため、ゲノム距離は分集団構造の補正として解析に使用し、全形質または各形質の表現型距離と多様性効果の関係をみた。その結果、行動形質の表現型距離が大きいほど、多様性効果が向上していた。行動形質の遺伝的変異が、そのほかの形質のそれよりも、個体群の生産性に大きな影響を与えていると考えられる。


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