| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-074  (Poster presentation)

イシガイ目の貝殻が宿主魚類の捕食回避場所と産卵場所になるか?
Can empty shells of freshwater bivalves (Unionoida) serve as antipredator shelters and spawning sites for host fish?

*中野光議, 冨吉多香子, 阿賀嶺礼旺, 金山孝介, 塩川駿佑(南九州大学)
*Mitsunori NAKANO, Takako TOMIYOSHI, Reo AKAMINE, Kousuke KANEYAMA, Shunsuke SHIOKAWA(Minami Kyusyu Univ.)

イシガイ目に属する淡水二枚貝は、幼生が魚類等に寄生する生活史をもつ。幼生は寄生時に宿主から栄養を吸収し、条件によっては宿主の生理や行動に影響を与えることがある。そのため、両者の関係は利益相反の寄生関係であるという見解がある。一方で、イシガイ目が宿主魚類に正の影響を与えることで相利共生が成立しているという指摘もあるが、実証は乏しい。本研究はイシガイ目の死骸の貝殻が宿主魚類の捕食回避のための隠れ家、および産卵場所になるかどうかを明らかにするために実験を行った。
捕食実験:マツカサガイの貝殻、シジミ属の貝殻、貝殻なしの3処理の水槽を準備し、各水槽にクロヨシノボリ(宿主魚類、被食者)10個体、コウライオヤニラミ(捕食者)1個体を入れた。実験時間(=捕食可能時間)を24時間、もしくは48時間とし、捕食されたクロヨシの個体数を特定した。各処理の繰り返しを10~12回とし、合計33回の実験を行った。上記の実験を2023年10~12月に行った。クロヨシの生死を目的変数とし、二項分布を仮定した一般化線形モデルを構築し、処理の影響を推定した。その結果、捕食時間を24時間とした実験では処理の効果は認められなかった。一方、48時間とした実験ではマツカサの貝殻のみが有意な正の効果を示し、マツカサの貝殻があるとクロヨシが捕食されにくくなること、およびシジミの貝殻には同様の効果がないことが明らかになった。
産卵実験:2024年4~5月、マツカサの貝殻を入れた水槽にクロヨシを雌雄1個体ずつ入れ、1週間ほど飼育した。クロヨシ22個体を使用した。1週間ほどで産卵が見られない雌雄の組み合わせ(ペア)があったため、水槽間で雌を交換しながら実験した(合計19通りのペア)。その結果、4ペアで産卵が確認され、いずれも貝殻に卵が付着していた。
以上の実験結果から、マツカサの死骸の貝殻が宿主のクロヨシに正の影響を与えることで、両者間に相利共生が成立することが示唆された。


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