| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-079 (Poster presentation)
現在、世界中で人獣共通感染症に関する懸念が高まっており、日本では、マダニが媒介するSFTSが問題になっている。現在は西日本を中心に報告されているが、その発生地域は北方に拡大しつつあることが知られている。しかし、東北地方のマダニの生息状況は不明な点が多い。東北地方は同緯度帯であっても日本海側と太平洋側では気候や動物相の生息状況が大きく異なることが知られているため、マダニ相も異なる事が予想される。しかし、これまでその群集組成や相対密度を評価した例は少ない。特定の地域におけるマダニ種の多様性を把握することは、マダニ媒介性疾患の発生を予測、予防するための基盤となるため重要である。そこで本研究では、東北地方の日本海側と太平洋側のマダニ相の相違を明らかにするため、2024年5~9月に、東北地方の岩手県、宮城県、秋田県、山形県の各県一部地域において調査を行い、マダニの群集組成及び相対密度について評価を行った。その結果、日本海側ではH.flava、I.ovatus、I.monospinosus、I.nipponensisの計4種が確認され、太平洋側ではH.flava、H.megaspinosa、H.longicornis、H.kitaokai、I.ovatus、I.acutitarsusの計6種が確認された。採取されたマダニ個体数の97.05%は太平洋側で採取され、日本海側と比べ、太平洋側で相対密度が高い事が示唆された。H.flava、H.megaspinosa、H.longicornisの3種が全体の95.82%を占めていた。採集されたマダニ種全体と、日本海側と太平洋側の双方で採集されたH.flava、及びI.ovatusについて、一般化線形モデルを用いて解析を行った。その結果、マダニ種全体、H.flava(成虫+若虫)、H.flava(若虫)では有意に太平洋側の方が多かった。本研究から、東北地方の太平洋側と日本海側では、同緯度帯であってもマダニ類の群集組成及び相対密度が異なる事が示唆された。今後はより詳細な地域差や季節変化及び宿主動物との関係等を調査する必要がある。