| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-081 (Poster presentation)
ニッチ分割は生物の多種共存における主要なメカニズムの一つと考えられている。これまで多様な生物で、餌などの資源に沿ってニッチ分割が生じ、その資源の利用に関する形質が種間で分化(形質置換)することが判明してきた。体温が外気温に依存する外温動物の群集では、好む体温などの温度形質や利用する温度環境が近縁種間でも異なることがある。これらのことから外温動物の群集では「温度」という資源もニッチ分割に関わり、多種共存や形質の進化に寄与する可能性が示唆されている(温度ニッチ分割仮説)。沖縄諸島にはバーバートカゲとオキナワトカゲの同属2種が分布する。オキナワトカゲはバーバートカゲよりも開けた高温環境に生息し、高い温度を好むことが知られており、この2種間で温度を軸としたニッチ分割が生じている可能性が示唆されている。本研究では、沖縄諸島に同所的に分布するバーバートカゲとオキナワトカゲ(以下同所オキナワ)の2種と伊江島に単独で分布するオキナワトカゲ(以下単独オキナワ)を対象とし、野外での環境利用調査と温度生理的形質の定量化を通じて、種間で温度形質の生態学的形質置換が生じているか評価した。結果、基質温度、樹冠率、日陰割合のうち樹幹率と日陰割合で種間差が検出され、同所オキナワはバーバーよりも有意に低い樹冠率と日陰割合の環境で活動していた。一方、単独オキナワとバーバーの間には有意な差はみられなかった。加えて、利用できる温度資源に個体群間で差はなかったことから、単独オキナワは同所オキナワより樹冠に覆われた環境を選択していることが明らかとなった。また、選好体温は単独オキナワで同所オキナワより有意に低く、最適体温は有意ではないもののより低い傾向にあった。これらの結果は、外温動物が「温度」という軸に沿ってニッチ分割を起こし、温度形質の進化を引き起こしているという温度ニッチ分割仮説を支持するものである。