| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-082 (Poster presentation)
森林の階層構造は生物多様性を支え、林冠と林床で異なる節足動物相を有する。これらの食物網は空間的に離れているが、落下物や移動する捕食者・被食者を通じて相互作用する。また、森林の水分条件や気候も節足動物の食物網に影響を与え、湿潤な環境では腐食者が増加し、乾燥環境では捕食者間のギルド内捕食が促進される。本研究では、針葉樹人工林における捕食者の栄養構造を明らかにすることを目的として、林冠と林床で節足動物を採集し、立地環境や階層構造が群集構造と栄養構造に与える影響を調査した。本研究では、以下の2つの仮説を検証した。捕食者(クモ類)の餌資源は、林床から林冠へと移動してきた腐食者に由来する(仮説1)。林冠のクモ類は、湿潤な林分では林床由来の腐食者を、乾燥した林分ではクモ類を主に捕食する(仮説2)。
林冠・林床でのフィールド調査と安定同位体分析を組み合わせ、スギ林冠(7~10 m)における節足動物捕食者の栄養構造を解析した。その結果、スギ林冠の捕食者(クモ類)の餌の起源は、林床から林冠へと移動する豊富な腐食者であることが示唆された。また、林冠におけるクモ類のΔ13C群集加重平均の比較により、スギ林冠の捕食者による腐食者への依存度が降水量や気温といった林分の気候条件と関係していることが明らかになった。一方、Δ15N群集加重平均の比較から、ギルド内捕食の依存度は環境条件によらないことが分かった。これは林床における先行研究と対照的な結果である。さらに、安定同位体分析の結果から、クモ類の分類群間で幅広くギルド内捕食が行われており、大型のクモ類が小型のクモ類を捕食していることが示唆された。
以上の結果から、スギ林冠の捕食者の栄養構造は、同所的に生息する腐食者の活性によって決定づけられる腐食補助と、広く行われる捕食者同士のギルド内捕食によって成立していると考えられる。