| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-083  (Poster presentation)

オオミズナギドリが繋ぐ海と樹上生態系~着生植物は海洋資源の受け皿となるか~
Seabirds Bridge Marine and Arboreal Ecosystems ~ Epiphytes function as the receiver of marine resources ? ~

*中島一豪(中央大学), 徳吉美国(東京大学), 亘悠哉(森林総合研究所), 中下留美子(森林総合研究所)
*Kazuhide NAKAJIMA(Chuo Univ.), Mikuni TOKUYOSHI(Univ. Tokyo), Yuya WATARI(FFPRI), Rumiko NAKASHITA(FFPRI)

海洋資源が島の生態系に取り込まれる過程には、波による漂着や海鳥による運搬など、いくつかの経路が存在する。それに対し、島側の受け皿として想定されるのは主に地表である。しかし、森林が形成される島では、より立体的に、多様な受け皿が配置される可能性がある。本研究では、海鳥による海洋資源の供給とその利用を支える受け皿として、樹木・着生植物・無脊椎動物から成る樹上生態系に着目した。樹木を生育基盤とする着生植物は、空気中の降下物を捕捉することで樹上に土壌を形成し、これが無脊椎動物に避難場所や餌資源を供給する。海域と陸域が隣接する立地から、島の空中土壌には海鳥の糞や食べ残しなどが捕捉され、それらが無脊椎動物によって利用されることで、樹上生態系は海洋資源の受け皿として機能する可能性がある。
上記の仮説を検証するため、我々は伊豆諸島の互いに隣接する御蔵島と三宅島の森林を対象とした調査を行った。御蔵島は森林内の地中に営巣する大型の海鳥:オオミズナギドリ(Calonectris leucomelas)の世界最大の繁殖地である。一方で三宅島にはオオミズナギドリはほぼ分布していない。オオミズナギドリは糞や吐き戻しによって森林内に海洋資源を供給し、島間・島内において、海洋資源の分布勾配を形成する可能性がある。そこで、土壌の栄養塩濃度、樹上と林床に生息する栄養段階を跨いだ複数分類群の安定同位体比を御蔵島-三宅島間で比較すると共に、御蔵島島内におけるオオミズナギドリの分布勾配との対応を網羅的に調査した。
結果、御蔵島は三宅島に比べ、土壌の栄養塩濃度(N,NO3-N,P)と動植物の窒素安定同位体比(δ15N)が高く、御蔵島島内ではオオミズナギドリの分布勾配との対応が確認された。このパターンは樹上-地表間で共通しており、オオミズナギドリは資源の運搬によって海洋と島の生態系を結び付け、島内では地表と同様に樹上生態系が海洋資源の流入を支える受け皿となることが示唆された。


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