| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-087  (Poster presentation)

くじゅう地区の半自然草原および湿生草原における蛾類群集を用いた環境評価
Environmental evaluation using moth communities in semi-natural grasslands and wetlands in the Kuju area

*田島尚, 大窪久美子(信州大学)
*Hisashi TAJIMA, Kumiko OKUBO(Shinshu Univ.)

草原生態系の保全が全国的な課題となっており、その中でもここを主な生息地とする蛾類(鱗翅目)の減少・絶滅が懸念されている。しかし、草原における群集レベルの蛾類の知見は全国的に少なく、種レベルでは近年になってからも未記録種の発見が相次いでいる。また、蛾類は種多様性が高いため、環境指標としての有効性が期待される一方、群集レベルでの立地環境条件との関係に関する知見が少なく、新規手法を検討するための研究が必要となっている。そこで本研究の目的は、阿蘇くじゅう国立公園のくじゅう地区の異なる立地環境の半自然草原と湿生草原における蛾類群集を明らかにし、これらと周辺環境や管理との関係を考察し、新規の環境評価手法の提案に寄与することとした。
群集調査は2020年と2022~2024年の7~9月にライトトラップ(カーテン法)を用いて5調査区で実施された。今回の解析は定性的(在不在)データとして7月(1回)と8月(2回)、9月(1回)分を用いた。蛾類は未同定を含む712種(大蛾類538種、小蛾類174種)が確認され,中には環境省(2020)および大分県(2023)のレッドリスト種が各々11種、7種含まれた。Chao2およびJaccknife2による生息種数の推定により、本調査による群集の解明度は各々約69%、62%だった。また、各調査区における蛾類の食性別割合(種数)はネザサやハギ類の優占程度の違いなど、特徴的な植生環境が一部反映されたが、大きな差はなかった。これは定量調査に用いられるボックス法に対し今回はカーテン法による定性調査を実施したことに加え、遠方の蛾類も多く誘引されたことが原因であると考えられた。クラスター解析の結果、中間湿原の調査区における蛾類群集に特に違いが認められた。本研究はJSPS科研費 JP19K06107およびJSPS科研費JP22K05706の助成を受けたものである。


日本生態学会