| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-089 (Poster presentation)
送粉ネットワークとは植物-送粉昆虫間の複雑な相互作用関係であり、生態系や経済に大きな影響を与える。送粉ネットワークの解明のためにはどの昆虫がどの花に訪れていたかを直接観察するか、昆虫の付着花粉から明らかにする必要がある。しかし、いずれも詳細なネットワーク構造を得るまでに時間がかかり、昆虫から取得した花粉の顕微鏡観察からは科レベル以上の細かい植物種の識別が困難である。そこで本研究では、植物の種判別に有効なITS領域の全長を取得できるナノポアシーケンサーを用いて、花粉DNAからの植物種同定法を確立し、送粉ネットワークに解析用いた。
調査は神奈川県丹沢山系にて行った。調査地の道沿いの訪花昆虫を無差別に捕獲する調査を二週間に一回実施した。合計で195匹(29科)の昆虫を採取し、昆虫の体表の花粉からDNAを抽出した。このサンプルを用いてITS領域をナノポアシーケンサーでシーケンスした。得られた配列からBlast+によって植物種を同定した。この結果をもとに送粉ネットワークを可視化し、昆虫ごとの訪花傾向を解析した。
その結果、ミツバチ科・コハナバチ科の昆虫はほかの分類群に比べて多くの種類の花粉DNAが検出され、得られたリード数も多かった。ミツバチ科の昆虫はクリやシャジクソウ科の植物、コハナバチ科からはヒメジョオン由来の花粉DNAが多く検出された。また、春から初夏にかけて捕獲した昆虫からはヒメウツギ、秋はハギ由来の花粉DNAが多く検出され、季節ごとの訪花植物の変化が明らかになった。これにより、丹沢山系の昆虫はいずれの季節も限られた植物を優先的に訪れつつ、低頻度で他の植物にも訪花する傾向が示唆された。
本研究により、ナノポアシーケンサーを用いた送粉ネットワーク解析が、迅速かつ十分な植物種同定を可能にすることが示された。この手法は送粉ネットワークの解明に貢献し、生物多様性保全や生態系サービスの理解を深める上で有用であると考えられる。